高齢化する農村/「地域立」で診療所開く

北日本新聞掲載 第5部 明日のために 6/2・6/4・6/5掲載

高齢化する農村/「地域立」で診療所開く

住民の働き掛けで開所したものがたり診療所庄東=砺波市宮森

「この地域に診療所が必要だと思いますか」 庄川右岸に位置し、田んぼが広がる人口約5400人の砺波市庄東地域。昨年11月、こんな質問が書かれたアンケート用紙が各家庭に配られた。 医療に関する問いが続く。「かかりつけ医は持っていますか」「どのような医療機関を利用していますか」など10項目が並ぶ。
アンケートをしたのは般若、東般若、栴檀野(せんだんの)、栴檀山の4地区でつくる庄東振興協議会だ。中山間地を抱え、高齢化が進むこの地域は、ある問題に直面していた。 庄東地域の住民のうち65歳以上の高齢者の割合は、砺波市全体の24・1%を大きく上回る33・4%で、3人に1人が高齢者だ。このまま進めば、5年後には4割に達する。
高齢化が進む一方で、地域の診療所は減った。30年ほど前まで4地区すべてに診療所があったが、医師の高齢化などで相次ぎ閉所。昨年春、般若地区の診療所が閉じたのを最後に、庄東地域の診療所はなくなり、医療機関は、寝たきりの高齢者が多く入院する療養型の病院1カ所だけになった。
こうした状況に、東般若自治振興会長の山崎泉さん(58)は危機感を募らせた。多くの住民が、庄川を越えて6~15キロ離れた市中心部の医療機関にかかっている。今は車を運転して市中心部に通えても、あと5年、10年すれば難しくなる人は多いだろう。今ですら家族への遠慮やタクシー代の節約から受診を控える高齢者もいる。運転できなくなったり、寝たきりになっても訪問してくれる診療所が、この地域に必要だと感じていた。
一方で、採算面を考えると、過疎化が進む農村部で開業してくれる医師は現れないだろう。自分たち住民が動くしかない。
気をもんでいた2009年12月、山崎さんは知人から「もうじき開業する面白い先生がいる」と聞いた。「机の前に座っているより外に出るのが好きで、看(み)取りの医療まで考えとるんやと」。当時、砺波総合病院の勤務医だった佐藤伸彦さん(53)のことだった。知人の話に、この医師なら開業してくれるのではないかと期待した。 「先生、私たちの地域で診療所をつくってもらえんけ」。住民4人で病院を訪れて直談判した。
佐藤さんは10年4月にJR砺波駅南口前で開業するのに加え、市が太田地区で運営していた診療所を引き継ぐことが決まっており、さらにもう1カ所開くことは無理だった。
山崎さんは色よい返事は得られなかったものの、佐藤さんが思い描く地域医療の在り方に共感を覚えた。診療所を拠点に、訪問診療や往診といった「出向く医療」を行い、人生の終わりまで住み慣れた家で暮らせるよう支える-。「こんな医師がいれば年を取っても安心だ。すぐには無理でも、いつか開業してもらいたい」との思いを強くした。
それから10カ月後の10年秋、佐藤さんから山崎さんへ連絡が来た。砺波総合病院でかつて一緒に働いていた医師が、佐藤さんが運営する医療法人に来てくれることになったという。山崎さんは地域を挙げて診療所の誘致を進めていこうと庄東振興協議会に打診。協議会が11月にアンケートを取った結果、住民の71・8%が診療所が必要だと答えた。
待望の診療所は「ものがたり診療所庄東」として今年4月1日、東般若地区の空いていた事業所を改装してオープンした。公立でも私立でもない。住民自らが実現させた“地域立”だ。

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